蜘蛛の旗

前日の悪天候から一転して快晴の朝を迎えた。

一昨日の時点で台風がくることは知っていたが、どうせ大したものではないだろうという見くびりと、その油断からかつい片付けを忘れてしまって、昨日の朝は雨に打たれながら仕事場のベランダを片付ける羽目になった。これはいかんなと思った時点で風は相当強く、片付けるにも身をかがめて手すり壁より上半身を出さないようにしながら、ベランダを右往左往した。勢いは強くも小さい台風だったのか、昨朝のうちに強風は収まり、夕頃には雨も止んだ。今朝は青空の下に夏の日が差している。わずかに感じられる程度の風が心地よい。

昨夜、二日ぶりに自宅に帰ったとき、台風に飛ばされないよう寝かせてあった自転車を起こしておいた。一晩明けて今朝になってみると、自転車と自転車の間にはもう蜘蛛の巣がはられていた。サッカーボールも包めそうなくらい大きくしっかりしたものだ。再建といったところか。あの強風では蜘蛛の巣もひとたまりもなかったろう。隣の自転車のサドルの下と右ハンドル、こちらの自転車の左ハンドルと、三点で支えられた立派な巣の中央に家主はじっとしていた。私は自転車通勤だ。

私の自転車のハンドルとサドルの下に手をかけ、少し持ち上げ、ゆっくりと動かしていくと、うまい具合にこちらの自転車との接点だけが外れた。隣の自転車のサドルの下と右ハンドルの二点で止められた蜘蛛の巣が、風ではためく。今まで巣の中央にいた家主は、にわかに動き出した。巣のあちらこちらを行き来している。私は仕事場に向かった。